「もう、、、、」


余にも分かりやすく極端すぎて―





There is no knowing




あの日を境にバッシュは私を見ない―
むしろ同じ空間に居ようとしないのだ。

話しかけようとしても上手い具合に逃げられてしまい、
不意に目があった時だけ複雑な表情で本当に少しだけ口元を上げて見せた。

いくら私でさえこれだけ避けられるといつもの調子でいられる訳がなかった。

あんな事を言って嫌われたと思うことではなく
バッシュの気持ちがどうなのかハッキリしないのが嫌なんだ。
それとも今の状況を察すれという事だろうか・・・

「どうしたら、、いいかな」

机に項垂れながら長くため息をついていると反対に腰掛けたフランに笑われた

「楽しそうね、鬼ごっこ」

「本当にそうなら捕まえるだけでいいのに。そうはいかないみたい」

「そうね」

「いっそ嫌いって言ってくれれば楽なのに」

「本当にそうかしら?」

いやそんな事ある訳もない。そんな事を言われたら

「―辛いわ」

結果を良くない方向に考え、そう思うのなら、
逃げてるのは私の方なのかもしれない。


フランに背中を押されて、やっと私は前を向いた。
自分が望んで蒔いた種だから自分で摘まなければ。

結末を恐れてこんな状態がいつまでも続くのは何よりも嫌だ―



そして、
やっとの思いでバッシュを見つけたけれど
一人で何処かに出掛けてしまう様だ

「一人ならそれ程遠くには行かないわよね」

そう考え距離を置いて彼の姿を追っていった


思った以上にシュトラールから離れていき、
今朝から曇りがちだった空は徐々に黒さを増していく



ポツリポツリと降り出した雨を気にもせず剣を振るうバッシュ。

練習を邪魔はしたくないから離れた場所から眺めていると
前にもこんな事があった事を思い出した。

あの時の私はこんな感情を抱いてはいない。
もしそのままならきっと今頃はあの横にいて
普通に話していたのかもしれないのに

惹かれてしまう事を止められる訳もなくてそれを巧く誤魔化す事も出来なかった―






雨脚が強くなり剣を降ろしたバッシュは驚く事もなく当たり前の様にがいる方へと歩いてくる。




「―・・こんなところで何をしている」

「日向ぼっこ」

「雨が降っているだろう」

「バッシュもいるじゃない」

「俺はいい、だが君は濡れる理由がない」

「あるわよ」

「・・・・」

「部屋の窓から姿が見えたから、それで」

「後をついてきたのか」

「知ってた?」

「ああ・・・」

ならここにいる『理由』を聞く理由はないじゃない

「そっか、手加減してくれたのね」

「君の性格だ、ムキになって探すだろう。
こんな処に一人置いて、君に何かあったなら皆に合わせる顔が無い」

「皆にね・・・・気にしなくていいのに」

「分かっているのに知らない素振りは出来ない」

「してるじゃない・・・」

「―一体何を怒っている

「捨て置いてくれればいいの。皆、大して気にしないわ」

「お前が傷つけば心配する」

らしくなく人のフォローなんてしなきゃいいのに。
自分がが惨めになってくる

「うわべだけ。いいのよそれで」

「卑屈になるな」

「違う。それだけで十分。だからもうほっといて」

「言っただろう、置いてはいけない」

「解ってない。私、子供じゃないのよ」

「だから何なんだ」

「一人で帰れるわっ」

髪が肌に付き、滴り流れる雨が目に入るのを防ごうと反射的に瞼を閉ざした。
そのまま戻すことの出来ない目線を横に逸らし口を噤ぐ。

「・・・・・」

「―・・」

互いの沈黙が痛い。
なにもこんな事を言うために来た訳じゃないのに。


自分勝手な言動に謝ることさえ出来ずただ時間が過ぎるのを待っていると、
自分の意思とは関係なく雨に濡れた体が僅かに震えていた

「・・

でもそれに気付いたのは自分がバッシュの腕の中に引き込まれた後で―

「――!!」


「寒いのなら、どうして言わない」

この期に及んでそんな事を口にするなんて思いもしなかった。

「言っても仕方ないもの・・・」

「意地を張るな」

そうさせているのは他でもない貴方なのに―


これ以上、バッシュに甘えるような私はあなたにとって何なの?
その答えを知りたがっているのは自分だけ。

「・・・・だったら」

バッシュの首には腕を伸ばし、自分の体重をかけた。

それを支えるために腰に触れた彼の手は冷たくて
顔が見えないように下を向いたまま抱き上げられた体。


「シュトラールまで連れて行ってよ・・」

頬を伝う温かさをともなった一滴の雫が流れたところで解る訳もない。

雨が音を立てて降っている。